送別会の前日に、花屋のカウンターで固まってしまう方をよく見かけます。
花贈りのコンシェルジュ、朝霧薫です。
退職の花は、選ぶときよりも渡したあとのほうが難しい、と私は思っています。
大きな花束ほど、受け取った方は電車で抱えて帰ることになるからです。
相場と花の選び方に加えて、当日の段取りと持ち帰りまで、相談を受けてきた順番でお伝えします。
読み終えるころには、花屋で伝えるべきことがひととおりそろっているはずです。
退職の花は「渡したあと」まで考えて選ぶ
大きな花束ほど、持ち帰りは大変になります
送別会で両手いっぱいの花束を受け取った方が、二次会のお店の隅に花を置いたまま、少し困った顔をしている。
そんな場面を、私は何度か見てきました。
花束は抱えているあいだはとてもきれいですが、駅の改札を通る段になると、途端に扱いにくい荷物に変わります。
まして送別が集中する3月末は、帰りの電車もいちばん混み合う時期です。
贈る側は、豪華なほど喜んでもらえると考えがちです。
けれど受け取る側にとっては、花の華やかさと同じくらい、無事に家まで連れて帰れるかどうかが切実な問題になります。
花を選ぶ前に、まずその方の帰り道を思い浮かべてみてください。
花束・アレンジメント・プリザーブドフラワーの違い
同じ予算でも、形が変わると使い勝手はまるで違います。
| 花束 | アレンジメント | プリザーブドフラワー | |
|---|---|---|---|
| 見た目 | 抱えると華やかで写真映えする | 器ごと完成していて上品 | 小ぶりで飾りやすい |
| 持ち帰り | かさばり、両手がふさがる | 底が安定するが片手では持てない | 箱入りで負担が少ない |
| 帰宅後 | 花瓶に生ける手間がある | そのまま飾れる | 水やりが要らない |
| 向く場面 | 送別会で花束贈呈をするとき | 最終出社日、車で帰る方へ | 引っ越しや旅行の予定がある方へ |
相手の帰り道から逆算します
電車通勤の方には、抱えたときに顔が隠れない程度の大きさに抑えると安心です。
車で通っている方なら、足元に置いても倒れにくいアレンジメントが向きます。
退職後すぐに引っ越しを控えている方には、水の要らないプリザーブドフラワーを選ぶと、荷造りの邪魔になりません。
私が相談を受けたときは、いつも「その方はどうやって帰られますか」と最初に伺います。
この一問だけで、選ぶべき形はだいたい決まります。
相場は3,000円から1万円、決め手は関係性です
関係性ごとの金額の目安
日比谷花壇の退職祝いで花を贈る際のマナーでは、一般的な相場を5,000円から1万円、複数人で贈る場合は1人あたり500円から1,000円程度としています。
花キューピットの退職祝いにおすすめの花では、同僚や同期なら3,000円から5,000円、上司や先輩なら5,000円から1万円が目安です。
両方を踏まえると、次のあたりに収まります。
| 贈る相手 | 金額の目安 | 形の選びかた |
|---|---|---|
| 同僚・同期 | 3,000〜5,000円 | 片手で持てるくらいの花束 |
| 上司・先輩 | 5,000〜10,000円 | ボリュームのある花束かアレンジメント |
| 部署の連名 | 1人500〜1,000円×人数 | 金額が上がっても大きくしすぎない |
| 取引先・社外の方 | 10,000円前後 | メッセージカードを添えて後日配送も可 |
連名のときは、集めた金額を全部花に使わない
10人で1,000円ずつ集めると1万円になります。
その全額を1つの花束にすると、抱えきれないほどの大きさになってしまいます。
連名で予算がまとまったときこそ、花は7,000円ほどに抑えて、残りを別のものに回すほうが喜ばれます。
私がよくおすすめしているのは、次のような使いかたです。
- 花束を持ち運ぶための専用のフラワーバッグを付けてもらう
- 切り花の栄養剤を多めに入れてもらう
- 花瓶を持っていない方には、そのまま挿せる小さめの花器を添える
- 残りをハンカチや菓子折りなど、かさばらない品にあてる
豪華さより、受け取ったあとの負担の少なさを優先します
金額を上げれば喜ばれる、という単純な話ではありません。
花瓶を持っていない一人暮らしの方に大きな花束を渡すと、その晩の帰宅後にバケツを探すことになります。
予算に余裕があるなら、大きさではなく、花の質と持ち帰りやすさに配分してみてください。
避けたい花と、選んで間違いのない花
弔事やお見舞いを思わせる花は外します
退職祝いで気をつけたいのは、別の場面を強く連想させる花です。
菊は日本ではお供えの印象が強く、白一色の花束もお悔やみと重なって見えます。
香りの強いユリは、オフィスで渡すと周囲の方が気になることがあります。
青山花茂本店のお見舞い、退院祝い、快気祝い 花を贈るときのタブーとマナーでも、鉢植えが「根付く」と結びつけて避けられてきた経緯が紹介されています。
ただ、こうしたしきたりを気にしすぎる必要はないというのが私の考えです。
親しい同僚に贈るなら、白い花を差し色に使っても失礼にはあたりません。
気をつけるのは、目上の方や社外の方へ贈るときと、菊を主役にしないことの2点で十分です。
花言葉で選ぶなら
言葉に意味を持たせたいときは、次のあたりが選びやすいです。
- ピンクのバラ 感謝
- オレンジのバラ 絆
- トルコキキョウ 優美、すがすがしい美しさ
- デンファレ 有能
- ガーベラ 希望、常に前進
「有能」という花言葉を持つデンファレは、長く働いてこられた上司への贈り物によく合います。
花言葉はカードに一行添えるだけで伝わりますから、口に出して説明しなくても大丈夫です。
色は、その方の雰囲気に寄せます
明るくにぎやかな方にはオレンジや黄色を、落ち着いた印象の方には淡いピンクや紫を選ぶと、受け取った瞬間の表情が変わります。
男性へ贈るときも、青や紫でまとめると甘くなりすぎません。
迷ったときは、その方がいつも身につけていた服の色を思い出してみてください。
意外なほど、はずれません。
渡すタイミングと、当日までの段取り
送別会なら挨拶の前、最終出社日なら終業後
送別会で渡すなら、退職される方の挨拶が始まる前がいちばんきれいに収まります。
花束を抱えた状態で挨拶をしていただくと、写真にも残ります。
最終出社日にオフィスで渡すなら、仕事が一区切りついた夕方から終業後がよいタイミングです。
朝に渡してしまうと、一日中デスクの脇で花がしおれていくことになります。
予約は3日前まで、繁忙期は1週間前に
3月末と9月末は、花屋にとって一年でも指折りの繁忙期です。
この時期に当日注文で理想どおりの花束を作るのは、正直なところ難しいときがあります。
遅くとも3日前、送別が集中する3月なら1週間前には予約を入れておくと安心です。
花屋にはこう伝えると早いです
注文のときに何を言えばよいか分からない、という声をよく聞きます。
次の要素を伝えれば、話はすぐに進みます。
「3月20日の18時に受け取りたいです。定年退職される上司へ、部署10名からの花束で、予算は7,000円ほど。ピンクとオレンジの明るい色でお願いします。電車で持ち帰るので、抱えられるサイズに収めてください。フラワーバッグも付けていただけますか」
日付と時間、贈る相手、予算、色、持ち帰り方法。
この5つがそろっていれば、店側は迷いません。
出社しない方には、自宅への配送という選択もあります
在宅勤務が中心で、最終出社日そのものがない方も増えました。
最後の挨拶がオンラインの画面越しだったという話も、ここ数年でずいぶん聞くようになっています。
そういうときは、無理に集まる日を作るより、退職日に合わせて自宅へ届ける方法があります。
配送で贈るなら、花束よりアレンジメントかプリザーブドフラワーが向きます。
届いてすぐ飾れて、受け取った方が花瓶を探さずに済むからです。
不在で受け取れないと生花は傷みますから、注文のときに配達希望日と時間帯を必ず指定してください。
その日に在宅かどうかだけは、さりげなく確認しておくと確実です。
持ち帰ったあとのひと言を添えます
花を渡すときに、家に着いてからの扱いを一言添えると、花もちが大きく変わります。
農林水産省の長持ちさせる切り花の扱い方では、包装紙を外して余分な葉を取り、茎を水の中で斜めに切ること、花瓶の水は継ぎ足さずに毎日入れ替えることが紹介されています。
切り花の日持ちは、こうした扱いと前処理の有無で差が出ることが、農研機構の切り花の品質保持技術の研究でも扱われています。
とはいえ、送別会の帰りにこれを全部お願いするのは酷です。
栄養剤を一袋添えて、「今夜は水に挿すだけで大丈夫ですよ」と伝えるくらいがちょうどいいと思っています。
まとめ
退職の花は、その方が職場で過ごした時間へのお礼です。
だからこそ、渡した瞬間の華やかさだけでなく、玄関を開けて花瓶に生けるところまでを想像して選びたいものです。
相場は関係性に合わせて3,000円から1万円。
連名で予算が集まったら、大きさではなく持ち帰りやすさに配分する。
菊と白一色は目上の方には避け、あとは相手の雰囲気に合う色を選ぶ。
渡すのは送別会の挨拶前か、最終出社日の終業後。
覚えておくのは、このくらいで十分です。
花を抱えて改札を抜けるその方が、家に着いてからもう一度花をほどく。
そのときにきれいに咲いていたら、贈り物としては大成功だと私は思います。

