ご当地のおせち事情

正月もとい寝正月を過ごすために年末にかけて調理される料理を「おせち」と言い、日本の伝統的な文化として現代に受け継がれています。

近年は若者のおせち離れが進行しているとされていますが、スーパーマーケットやコンビニなど手軽に行ける店舗で予約販売しており、消えていく伝統と比べてしまうとまだ憂慮する事態ではないです。

むしろ家庭を持っている人、特にいつも調理するお母さんからすれば絶対になくなってほしくない料理と言えます。

そんなおせちは元々は五節句の祝儀のための料理であり、無病息災や五穀豊穣など様々な祈りが込められていました。

しかし時代とともに祝儀の作法はいい意味で薄れ、イタリアンやフランスなど西洋風な味付けや料理が飾られるようになり、現在ではパフェやペットの餌にさえアレンジされているほどです。

また家庭では先述した店舗への注文も主流になりつつありますが、調理する際はそれぞれの家庭での調理をしています。

例を挙げるなら重箱の1つに海老の天ぷらをふんだんに入れておき、蕎麦のトッピングになるようにしているなど様々なケースがありますが、そこにはご当地ならではの料理も詰められたり並んだりする事も珍しくないです。

ご当地のおせちとは言わば郷土料理が添えられており、当然全国各地で異なっています。

基本的に贅沢品である海の幸をふんだんに用いていますが、用いられている魚介類はそのご当地によってバラバラです。

例えば福島県では「いかにんじん」というイカと人参を細切りにし、醤油やみりんといった金平ごぼうのように調理された品が挙げられますが、近くの茨城県では「鮒の甘露煮」が好まれています。

頭や尾を切らずに砂糖や醤油など甘めにし、そうしてじっくり煮込んでいく料理です。

このように近しい地域であっても少し離れれば並ぶ品は異なっています。

けれどおせちではご当地の料理ではなく、味付けの違いが有名な話です。

関東では濃い口醤油といった濃い甘みが好まれているのに対し、関西では薄口醤油などいわゆる出汁の風味が効いた味が一般的になっています。

この味の違いには日本の歴史が関わっていると言われており、例えば関東は農業など肉体労働に勤しむ人たちによって経済が成り立っていたそうです。

肉体労働という事は勿論汗を流すので塩分の利いた代物が自然と多くなっていったわけですが、反対に関西は商業もとい商人で経済が成り立っていたので汗を流す事はなく、むしろ塩分の利いた味付けは余計だいう説があります。

また商業のコストを少しでも回すために食費を削減し、そのうち醤油のコストも削減されていって自然と薄口になっていった別の説もありますが、いずれにしても全国で共通して認識されているおせちの内容は異なっているわけです。

実際に伝統的な蒲鉾と黒豆、そして数の子は比較的飾られますが、それ以外はない場合も多々あります。

他にも先述したようにご当地ならではの品が並ぶ事はあり、長崎県では「太く長く生きるため」という祈りを込めて鯨が縁起の良い食べ物として出される事が多いです。

徳島県では黒豆や金時豆を野菜とともに煮込んだおでんぶ、島根県ではワニことサメのお刺身、三重県では煮なますなど多種多様なラインナップになっています。

まさしく全国各地47都道府県に正月に出されるご当地の代物が1品あるわけです。

無論食材はいつもあるわけではなく、また予算の都合もあるのでいつも並ぶわけではありません。

結局家庭が判断するところですが、いずれにしても正月というイベントに地域の特色が浮き彫りになっています。

人によってはこだわらないかもしれませんが、地元の味でなければ正月を迎えられないと感じている人は大勢いるものなので地元の食べ物は是非堪能したいところです。